高度化PICS(「信GO!」アプリ)説明会に参加しました。

 令和3年7月7日(水),東京都盲人福祉センター(東京都盲人福祉協会)において,高度化PICSの説明会が行われました。当日は,平田理事長が説明会に参加し,説明会外でのシステム体験では,平田理事長のほか,野村副理事長,会員1名が参加しています。そこでの様子についてお伝えします。なお,今回の説明会では,都内から10数人の視覚障がい者が参加し,体験やアンケートを通して,高度化PICSの可能性や今後の課題などを警視庁様や日本信号株式会社様と共有しました。

概要

 高度化PICS(Pedestrian Information and Communication Systems:歩行者等支援情報通信システム)とは,交差点情報や信号機の情報(赤なのか青なのかなど)を,歩行者のスマートフォンに提供するシステムのことです。スマートフォンに,高度化PICSに対応したアプリケーションである「信GO!(日本信号株式会社提供)」をインストールすることで,高度化PICSのサービスを受けることができます。このシステムに対応した信号機に近づくと,スマートフォンから通知が発せられ,アプリ上では,信号機の状態,交差点の名称などを見聞きすることができます。

使い方

 「信GO!」アプリを起動したうえで画面上を押し続ける(音声読み上げ機能を使用している場合は,押し続ける動作を実行させる動作を行う)ことで,音響の要求又は横断の要求をすることができます。東京都の場合,信号機に対して音響を要求することができます。対応信号機はまだまだ多くありませんが,これから増設されるようです。東京都以外にも,静岡県,千葉県,宮城県などに設置されています。
 以下に,「信GO!」アプリを使用している様子をビデオにしました。少々分かりづらいですが,画面を押し続けることで,信号機からメロディが流れ,音響要求が成功したことが分かります。

使用してみて感じたこと

 このシステムを体験してみて,視覚障がい者の歩行支援に大きく役立つこと・安全な歩行に一歩近づいていることを実感しました。視覚障がい者は,歩行する際,周囲の音や白杖に伝わる感触,雰囲気,経験等を頼りにしています。歩行中の危険といえば車との衝突などがありますが,大きな交差点や横断歩道での歩行は非常に危険です。音響信号が設置されている場合,その音響を頼りにして安全に道路を横断することができます。しかし,夜中や早朝に音響機能が発動するのは騒音であるという苦情もあり,特に夜の歩行は危険な状況にあります。
 また,音響機能を備えていない信号機の場合,周りの人に信号の状態を尋ねるか,周りの音を頼りに信号の状態を把握することになり,やはりこれも危険です。「車がいないので青だと思って渡ったら赤だった」というのはわたくしの経験上よくあります。
 そして,特に怖いと感じているのが電気自動車です。電気自動車は,低速時にはほとんど音が出ないため,近くに電気自動車がいることに気づくことができず,衝突しそうになったことがありました。
 こうしてみると,信号機の重要性や音響信号の重要性は大きいはずです。高度化PICSのようなものが普及すれば,私たち視覚障がい者の更なる自立と社会進出につながると考えています。

 しかし,改善が必要ないというわけではありません。今回体験してみて思ったことは,高度化PICSが採用されている交差点において,音響機能が付いていない信号の場合,「信GO!」アプリを使ったとしても,どの横断歩道の信号機が赤なのか青なのかを知ることが難しいというところが問題となります。交差点情報をどのように覚えるのか(自分はどの名称の横断歩道にいるのか)そのところが解決できないと,現時点では音響機能を備えていない交差点での使用は難しいと言わざるを得ません。ただ,単なる横断歩道であれば,その点問題はないかも知れません。

「信GO!」の画面。画面上には,交差点の名称と,その交差点の信号機がどうなっているかが表示されている。自分がどの横断歩道にいるのかは分からない。画面上では,あとどれくらいすると青になるのかまたは赤になるのかがある程度分かるようになっている。音響要求をすると,要求したことが画面上に表示される。
高度化PICSに対応した信号機に近づいたときの画面


 また,「信GO!」アプリには,交差点(横断歩道)情報を見ることができる機能があります。ここでは,近くにある交差点又は横断歩道の形状,名称を知ることができます。しかし,その情報は画像となっているほか,Alt属性がついていないため,特に全盲の人にとっては,そこからなにも情報を得ることはできません。なお,Alt属性とは,スクリーン・リーダーを使用している人が画像の内容を知ることができるように,画像にその内容を文字で付け加えるものです。また,通信環境の不安定により画像が表示されない場合,Alt属性に記載された文字が表示されます。別に代替テキストとも呼ばれます。

高田馬場口交差点の形状,横断歩道の名称などがイラスト化されて表示されている。明治道路直進方向,早稲田通り直進方向などと表示されているものの,これをスクリーン・リーダーで読み取ることはできない。
交差点情報の画面

 さらに,高度化PICSは,BluetoothやGPSを使用しているため,システムに対応した信号機が多ければ多いほど,システムが正常に動作しない恐れがあるということろが挙げられます。これは実際に体験したわけではなく,憶測になりますが,正確に信号機や交差点情報を習得できなければ,システムを使用することで逆に危険が増すことにつながります。現時点ではそのような心配はないかも知れませんが,増設する際に,そのような問題が出てくるかも知れません。代替手段としては,NFC(near field communication:近距離無線通信)技術を使い,スマートフォンを高度化PICS対応信号機のコントローラーに近づけて,交差点や信号機情報を取得するといったこともできるのではないでしょうか。

さいごに

 今回の説明会への参加や体験は,高度化PICSの登場による視覚障がい者の歩行支援及び自立・社会進出の向上が期待できると感じた有意義な1日となりました。視覚障がい者の更なる安全な歩行につながるシステムになることを期待しています。